発生主義とは?お金の動きと損益の「ズレ」

経理業務をするうえで避けては通れない「発生主義」。

この発生主義をきちんと理解して、お金の動きと利益には「ズレ」があるということを常に念頭に置くようにしてください。

 

そうしないと、「利益がでてるから大丈夫だと思っていたのに、資金繰りにつまって金策に走らなくてはならない」という状況になりかねません。

 

もっとひどくなると、黒字倒産という最悪の事態に陥ってしまいます。

 

今回は、会計に関する基本的概念であり、資金繰りを考える上でも重要な「発生主義」について説明します。

 

 

簿記だけではお金の流れがわからない

 

「一生懸命、日々記帳をしていてもなかなかお金の流れがわからない。」

と嘆いている方はいませんか?

 

もちろん、簿記ルールに従って毎日きちんと記帳を行えば会社の業績は正確に算出されます。

 

しかし、それだけではお金の増減を適時に正確に把握することができないのです。

 

なぜでしょうか?

 

それは、簿記のルールに則った記帳の目的が、決算書の作成つまり1年間の業績の把握であって、お金の流れの把握ではないからです。

 

業績を把握するための経理は「現金主義」ではなく「発生主義」に基づいて行われます。

 

 

現金主義は家計簿と同じ単純なお金の出入り

 

現金主義とは、単純なお金の出入りを記録するという考え方のことです。

 

お金が入ってきたら売上計上

出ていったら仕入や費用を計上

 

お金の入出金があったタイミングに、入出金のあった金額で計上する。

 

とてもシンプル。わかりやすい。家計簿レベル。

 

 

発生主義とは?

 

発生主義とは、売上や仕入といった取引が発生した時に、発生した金額を計上する考え方です。

 

商品を引き渡したら売上計上(お金が入ってこようが、掛けだろうが)

商品を受け取ったら仕入計上(お金を支払おうが、掛けにしようが)

 

つまり、発生主義では、お金の動きとは関係なしに、帳簿上で売上や仕入といった動きが起こり利益が計算されます。

 

ここに、お金の動きと利益の「ズレ」が生じます。

 

 

発生主義と現金主義の具体例

 

発生主義と現金主義で計算した場合、どこがどう変わるのか身近な例で考えてみましょう。

 

詩織さんは龍矢くんの経営するラーメン屋の常連客です。

 

4月に詩織さんが食べたラーメンです。分かりやすく、同日に龍矢くんは仕入をした(費用が発生した)と仮定します。

 

  

 

  龍矢くんの売上 龍矢くんの仕入
4月10日 … 味噌ラーメン     700円     300円
4月20日 … 塩ラーメン     650円     200円
4月30日 … 特製ラーメン    1,500円     150円
     合計    2,850円     650円

 

 

龍矢くんのラーメン屋の4月の状況は、

 

    売上 2,850円      
    費用 650円      
    利益 2,200円      

 

この状況では発生主義でも現金主義でもラーメンを食べたときにお金をもらっている、仕入をしたときにお金を支払っているので差はありません。

 

次に、詩織さんが4月のラーメン代金を全てツケにして5月にまとめて支払ったと仮定した場合の、発生主義と現金主義の利益を考えてみましょう。

 

 

発生主義では、「ラーメンを提供する」という取引が発生した時に売上を計上するので、代金をツケにされても売上が計上されます。

 

一方、現金主義では、4月のツケにされたときは売上代金の入金がないため、売上計上されません。5月の入金時に売上計上となります。

 

 

 

発生主義と現金主義の「ズレ」

 

この発生主義の例をみると、4月は利益がでてるからOK!となります。

 

でも実際のお金の動きは、現金主義の例を見てわかるように、4月は入金がないのに支払があって苦しい!ということになります。

 

現実の会社では、仕入代金もツケでとか、ラーメン屋の賃料支払も翌月払いだとか、もっと様々な要因が絡んでくると思います。

 

こうして、発生主義で記帳している帳簿上の数字と、実際のお金の動きの間にわかりにく「ズレ」が生じます。

 

 

そして、このズレをきちんと把握していないと、先にも述べたように

 

「利益がでてるから大丈夫だと思っていたのに、資金繰りにつまって金策に走らなくてはならない」

 

という状況になってしまうのです。

 

 

発生主義で作られている決算書や試算表を見ただけで、お金の動きを適時に把握するのは実は難しいことなんです。

 

 

どうして発生主義で記帳するのか?

 

では、なぜこの発生主義で記帳しなければならないのか、簡単に説明します。

 

先ほどの具体例で考えてみましょう。

 

龍矢くんのラーメン屋の4月の経営状況は良いといえるでしょうか?

それとも悪いといえるでしょうか?

 

2,850円分のラーメンを提供し、そのラーメンにかかる費用を差し引いたあとの利益が2,200円あります。

 

普通に考えて「良い」といえますね。

 

売上に対応する経費を差し引いて利益が残るのであれば、その商売はうまくいっていると考えられるのではないでしょうか。

 

現金主義では、お金の出入りが発生しないと記帳しません。

実際にどれだけの商品やサービスを提供したか入金があるまで業績に反映されないのです。また、その売上を上げるための経費が、売上とは対応しない期に計上されてしまう可能性もあります。

 

  • 入金はまだないが、商品をすでに提供して料金も確定している場合は売上として計上した方が、会社の経営活動を正しく評価できるのではないか。
  • 提供した商品にかかる仕入や経費は、その商品に対応させて計上した方が、利益を正しく把握できるのではないか。

 

このような考え方によって、発生主義が採用されているのです。

 

決算書は、会社の1年間の経営活動の成績を社外の利害関係者に公表するのが目的で作成されるのです。

 

 

まとめ

 

発生主義とは、売上や仕入といった取引が発生した時に、発生した金額を計上する考え方です。

 

会社の経理ではこの発生主義が採用されています。

正確な経営状況を把握するには発生主義という考え方は重要です。

 

しかし、発生主義ではお金の動きとは関係なしに帳簿上で売上や仕入といった動きが起こるため、発生主義で記帳している帳簿上の数字と、実際のお金の動きの間にわかりにく「ズレ」が生じてしまいます。

 

この「ズレ」を把握していなければ、利益がでているのにお金がないという状況に陥ってしまいます。

 

資金繰りに困らないようにするためには、発生主義と現金主義の「ズレ」を念頭に置いて、お金の流れを把握するようにしてくださいね!

 

 

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